うすいの気まぐれな日記

手話、聴覚障害、マイノリティなどなど

通訳の悩み

今日はちょっと長いです。お時間のある方はぜひお付き合いください。

 

世の中で、二番目に古い仕事は「通訳」と言われています。

通訳といえば、日本人と外国人の間に入って言葉を訳す仕事というイメージを持たれますが、手話通訳もあります。日本人同士の中に入って、日本語と手話の間を通訳する仕事です。

 

聴者が話をするとき、ろう者は耳が聞こえないので通訳を通して話を理解し、ろう者が手話で話をするとき、聴者は手話が分からないので通訳を通して話を理解する。

 

この作業を双方向で行えるように、通訳者が間に立ちます。「手話通訳士」「手話通訳者」と呼ばれ、前者は厚生労働省の試験があります。

www.mhlw.go.jp

 

合格率が一桁の時もあるくらい、難易度が高いみたいです。受けたことはありませんが(わたしゃ耳聞こえへんので)、一発で合格できる方もいれば、何度もチャレンジしている方もいます。

 

聴覚障害者は全国で約35万人、その中で手話を使うろう者、難聴者は数十%と言われています。そこで手話通訳士は何名なのかというと、、、約3,600名。

 

ろう者の間では「手話通訳できる人が少ない」と嘆いていますが、専門的に養成しているところが少ないこと、ろう者自身がどうやって育てたら良いか分からないこと、そしてろう者、手話通訳者同士の叩き合いがあることによって人材が伸びていかない現実があります。

 

また、手話を一つの言語というよりは、障害を持った人が使う言葉という認識で、手話を使う人は全員「ボランティア」と位置付ける人たちがいます。手話を少し学んでいる聴者を見つけては「手話できるんだから、通訳やってね」と。ちょこっと学んだくらいで、通訳できるわけないのに!

 

英語でいえば、英検4級合格した人が、アメリカのビジネスマンの通訳(しかも、取引先との交渉場面)ができるのでしょうか。

 

手話の世界では、時々、手話初心者が無謀な通訳場面に遭遇してしまいます。本人も、周囲からプレッシャーをかけられ、しまいには、それが当たり前だと言わんばかりに本人も「通訳しますね」と手を差し伸べせざるを得なくなる。

 

ろう者は手話を使う少数派(マイノリティ)の民族とも言われていますが、聴覚障害があります。耳が聞こえないということは、聴者と比べて「耳から入ってくる情報量が少ない」ため、本来身につけられるはずの常識、知識、生活力が、どうしても欠け落ちてしまう人もいます。

 

「これだから耳が聞こえない人はマナーがなっとらん」「常識知らず」と言われたケースもよくある話です。ろう者の中には本当に、ならず者もいます(所詮、障害があってもなくても人間)。手話通訳者の中には、「ろう者は能力が足りない」「いちいち説明しないと分からないから仕方ない」と上から目線の方もいらっしゃいます。

残念なことに、その逆もアリ。

「手話通訳者はだめ、分かりにくい」と真正面から否定するろう者もいます。それなりの事情はあるにしても、手話講師であるろう者がそう断言してしまっては元も子もない。

 

私が出会った手話通訳者の中には、とても素晴らしいスキルを持った方がたくさんいます。

素晴らしい通訳者たちに聞いてみると「やはり、一番最初に出会ったろう者が素晴らしい人だったから、こうして手話を続けられているし、ろう者のために力になりたいと思った」と口を揃えていました。そして、「ろう者の中にも色々な人がいる。生活力がほとんどなくて、どうしてこんなことが分からないのだろう、と観察しながら、本人が分かるように通訳することを心がけている」とも。

 

ろう者の中には、手話通訳を今まで全く使ったことがない人もいます。

「手話ツウヤク??」「なに?誰なの?」。そんな感じ。

他にも、「私は筆談ができるから、手話通訳なんて要らない」という人もいます。

 

でも、手話通訳はとても大事な存在です。筆談で通じる力は持っていたとしても、リアルタイムで話を進めていくためには、通訳を活用することも一つの選択。仕事上、営業や取引先と話をするときに、通訳があればいいのになぁと思うこともしばしば。

 

耳が聞こえることは、今の社会ではマジョリティ。そして、ちょっと工夫するだけで構わない程度で話が通じる。聴者はすでにスタートラインに立っています。しかし、ろう者が同じスタートラインに立つためには、そこにたどり着けるよう伴走してくれる手話通訳者が必要になります。

 

しかしながら、聴者の世界とろう者の世界の狭間にいる手話通訳者にとって、悩むことはたくさんあるようです。この話はまたの機会に。