一人のろう者のお話
12月15日土曜日。
飲みにいきたいなぁ。
−はい、行きましょうよ。
旅行に出かけたい。
−私が代わりに予約しましょう。
あれが食べたいな。
−車出すから一緒に行こう。
(ん?ちょっと待って。
◯◯したいなぁ、と言えば周りが動く。
自分は何もしなくてもいいってこと?
それってすごいじゃん。)
それから数十年後。
休み取れたからどこか行きたいなぁ。
−いいね、行こうよ。
映画見たいなぁ。
−あれ見てみる?一緒に行こ。
友達が結婚するって?お祝いしたいな。
−誘ってみたら?
ん?ちょっと待って。誘ってみたら?っていうのは、自分からってこと?
−うん、そうだよ。
それから1年後。
このお店に行ってみたい。
−うん、誰かと行く?なら、予約してみたら?
耳聞こえないから予約なんて無理だし。
−え?カンケーないよ。いくらでも方法はあるし。
(ここで手話通訳者から「私が代わりに電話してあげようか」と一言)
あー助かった。代わりに電話してくれるなら楽チン。じゃ、頼むわ。
−いや、断れよ。自分でできるんだろ。
(え?今までは周りが動いてくれてたのに…)
−人数、行きたいお店が分かれば後は動けるだろ。大丈夫。何かあったらその時は、その時だからさ。
(まぁ、そうだよな。いい歳していつまでも周りに頼るのもなんだかな…通訳者は優しいけど、確かに自分で予約してみるのも悪くないかもな)
それから数日後。
やった、フツーに食事会できた!
−こないだはありがとね!
−美味しかったよね!
(予約して周りに連絡して実施するって、どうなるかと思ったけど案外、楽しかった!お店の人も怪訝な顔しなかったし、聞こえないと言ったらフツーに対応してくれて嬉しかったな)
ありがとう、自分でやれ!と言ってくれて。
−いやいや、無事終わって良かったね。今度飲みに行こうぜ。
俺が予約しとくよ!
−お!やるじゃん〜
(つづく)